『その症状、もうしかして高齢者うつかもしれません』

「うつ病」と聞くとどのような症状が思い浮かぶでしょうか?

「気分が落ち込む、つらい、悲しい」そういった症状を思い浮かべることが多いと思います。確かにそういった症状は「抑うつ気分」といって、うつ病の典型的な症状としてみられるものです。しかし高齢者のうつでは、このような感情面の症状をあまり訴えないこともあり、また「齢のせいだろう」ということで、うつ病であることが見逃されてしまう場合がしばしばみられます。

高齢者うつの特徴

 うつ病は、生涯のうちに15人に1人が経験することのある、決してまれな病気ではありません。どの年齢層でもみられ、60歳代以降の発症も多くみられます。そして特別なきっかけがなくても起こりえますが、心理的または社会的な誘因を伴うことが多い病気です。 

 特に高齢者の場合は、様々な喪失感を経験することが多くなります。例えば、近親者との「死別」、体力の低下や病気による「健康の喪失」、退職や子どもの独立などによる「社会的つながり・役割の喪失」などが挙げられます。そういった経験が高齢者うつの誘因になります。

 そして症状の特徴としては、身体症状を訴えることが多いということです。「肩がこる」、「耳鳴りがする」、「頭が重い」、「めまいがする」、「体が痛い」、「食欲がない」など、その訴えは様々で多岐にわたります。「むし歯がないのに歯が痛い」といった訴えをされる方もいます。こういった身体的な症状が強く、「つらい」、「悲しい」といった感情面の症状が目立ちにくい場合がしばしばみられます。

 またうつ病では何かを考えるテンポが遅くなり、質問に対しての応答にも非常に時間がかかるようになります。さらに判断力や理解力の低下もみられることから、あたかも認知症のようにみえる場合があります。

 このように、体の不調の訴えが続く、認知症のようにみえる…。その症状、もしかしたら高齢者うつかもしれません。もちろん、身体症状がある場合には内科、耳鼻科や整形外科などで診てもらうことは必要ですが、「原因がはっきりしないけど症状が続く」といった場合や「最近、急に忘れっぽくなった」とご自身やご家族が感じるような場合には、精神科で相談してみてください。

 最後に、高齢者うつの予防には心と体の健康維持が重要です。家族とのつながりや、趣味や習い事、ボランティア活動への参加などを通して、友人・地域とのつながりを保つこと、またバランスのとれた食事や適度な運動、睡眠による適切な生活習慣の維持をこころがけてください。


コラムの執筆者
精神科常勤医師 柳⽥ 拓洋(やなぎだ たくよう)

・資格
認知症サポート医

・専門分野
精神医学全般

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